2033年ビジョン実現へ
新体制で加速する、
成長戦略と価値共創

代表取締役会長 佐藤 恒徳

新体制へ
2033年ビジョン実現に向けた新たな経営体制を始動

当社は昨年、10年後の目指す姿として「HIGH FIVE 2033」というビジョンを掲げ、2033年度に売上高700億円、営業利益126億円を目指すことを宣言しました。そして、このビジョンをバックキャストし、2026年度を最終年度とする第4次中期経営計画「FLY ON 2026」で、売上高280億円、営業利益48億円という中間目標を設定しました。2025年度は、その2年目となります。このタイミングで、今年から代表取締役社長を坂田幸司に引き継ぎ、私は代表取締役会長に就任しました。
新体制への移行を決断した背景には、大きく二つの理由があります。
第一に、これまでの成長スピードでは、2033年の目標到達は難しいと判断したことです。私が代表権を持った2017年の前年度の売上高は111億円でしたが、2024年度には205億円へと約84%成長させることができました。しかし、今のやり方を続ければ、せいぜい300億円規模の成長にとどまる可能性が高い。2033年を見据え、成長をさらに加速させるには、これまでの延長線上ではなく、発想や戦略を大きく転換する必要があります。市場性や社員の潜在力を最大限に引き出すためにも、経営体制の刷新は不可欠だと判断しました。
第二に、今後の成長には、新たな技術に対して「スピード感ある取捨選択」と「揺るぎない品質確保」が不可欠であり、今後当社にとって非常に大きな、重要なポイントになると考えたからです。当社は1972年にハードウェアの輸入商社として創業し、80年代からパッケージビジネスに転換し成長してきました。しかし近年、ITの進化のスピードは飛躍的に高まっています。技術の取捨選択や技術力向上においては、瞬時の判断が求められる時代です。技術畑出身の坂田社長であれば、最新技術をしっかりと押さえ、この局面をけん引できる人材だという考えのもと、思い切って経営執行を委ねることにしました。これにより、技術と営業の両輪でお客様に迅速かつ的確に対応することが可能になり、より細やかにお客様のニーズに応えることができ、その結果、良いシナジーを生み出せると考えています。

長期ビジョン
ITで社会課題を解決することが使命「自社開発型」からの脱却で新領域へ

日本は人口減少と少子高齢化が同時進行し、労働人口の減少が加速度的に進んでいます。私は、この課題に立ち向かう最大の手段はIT以外にないと考えています。ITの守備範囲が広がり、人が行ってきた作業をITが担うことで時間が生まれ、人にしかできない創造的な仕事に注力でき、生産性や付加価値が向上し、時間の有効活用につながります。これはまさに、「HIGH FIVE 2033」に掲げる「事業を通じて人々の豊かな時間を創出」に通じるものです。
今年で創業54年目を迎える当社は、常に自社開発にこだわり、他社にはない独自性を備えたパッケージを提供してきました。もちろん外注をしている部分もありますが、お客様と直接関わるフロント部分は、一次請けとして当社が担ってきました。お客様からの要望や時に厳しいご意見も直接頂き、それをシステムの改良や新サービスの創出に生かしてきました。その結果、社内には、あらゆる業界におけるお客様業務のノウハウが蓄積され、業界内での当社のシステムやサービスの横展開が可能になりました。これは、他社にはまねができない当社の大きな強みとなっています。
しかし一方で、「自社開発型」にこだわり過ぎることで、急速に進化する技術分野に通用しなくなる可能性も見えてきました。自社でシステム開発を完結してきたため、世間から技術力で後れを取ってしまったのは事実です。特に顕著なのは、スマホアプリへの対応です。この後れを社内だけで挽回するには時間と人財が必要となり容易ではないため、外部の技術やアイデアを積極的に取り込む必要性が高まっています。言い換えれば、長年のこだわりが一種の「鎖国状態」に近い環境を生みかけており、その殻を打ち破ることが今まさに求められているのです。

外部との連携
地域活性化につながるCVCを推進 外部連携で広がる価値共創の可能性

そこで、今後の成長に向けて、新規事業の創出やM&A(統合・買収)、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)など、外部との連携促進・強化を開始しました。その具体例が、今年2月に出資した株式会社バカンと、3月に出資した株式会社Payke(ペイク)です。バカン社はAIを活用した混雑状況の可視化・管理・配信など、多彩な機能を提供するプラットフォームを展開しており、Payke社は訪日外国人向けのショッピングサポートアプリを開発・運営しています。
当社は地方創生をパーパスに掲げていますので、地方の日常生活を少しでも支援できる仕掛けがあれば、地域金融機関や自治体などを通して、または直接社会に対して提供していきたいと考えています。先ほどのCVC2社のアプリで提供される情報は、今やどの地域でも求められているものです。2社が持つ独自の強みと当社の顧客基盤を掛け合わせることで、単なる情報提供にとどまらず、社会の無駄をなくし、人々が豊かな日常生活を送れるような新たな価値を生み出せると確信しています。
代表に就任した当初から私は、「当社は、B to BではなくB to B to Cの企業である」と発信してきました。例えば、当社の直接のお客様は金融機関ですが、そのシステムを実際に利用するのは地域社会に暮らす人々です。人々が便利さや安心を実感できなければ、金融機関は評価されずお客様も満足されません。当然ながら、当社の価値にもつながりません。ですから、この「B to B to C」――企業を通じてその先の生活者に価値を届けるという考え方を、さらに深化させていきたいと考えています。
そのためにも、これまで築いてきたお客様との関係性や業界ネットワークをベースに、外部の新しい技術やサービスを柔軟に取り入れて事業へ還元し価値を共創していくことが、私に課せられた重要な役割の一つです。
また、私は常にモットーとして、「面白いことにはチャレンジしたい」と考えています。ベンチャー企業の若い経営者の皆さんの柔軟な発想やスピード感に触れ、直接対話して刺激を受けられるのは本当に楽しいことです。今後もこうした世界に積極的に飛び込み、良いものをどんどん吸収しながら、当社の成長の糧として生かしていきたいと考えています。

企業価値向上・ブランド力
国内外のステークホルダーと対話を重ね新たな機会を切り開く

当社ではここ数年、財務的成果にとどまらず、社会からの信頼獲得とブランド力強化に向けて、積極的に外部発信に取り組み、その成果として投資家の皆様における認知度は着実に向上してきました。
一方で、こうした認知度やブランド力の向上が最終的に企業価値として評価される際には、株価や時価総額といった数値的な指標で表されます。投資家の皆様に投資対象として検討いただくには、一定以上の時価総額規模が求められます。私はその目安とされる500億円規模を一つの通過点として意識していますが、その数値を支える根幹となるのは、投資家の皆様との直接的な「対話」だと考えています。公式の発表や資料だけでは十分に伝わらない当社の真意や目指す将来像を、直接の言葉で補い、共感や理解を深めていただく。そうした積み重ねこそが認知度とブランド力を押し上げ、ひいては企業価値の持続的な向上につながると考えています。

一人一人の価値認識が、社会の価値創造を生む

マテリアリティは前中期経営計画で策定し、これまでその浸透に努めてきました。現在は、その取り組みを基盤として、さらに深く掘り下げ、新たなステージへと踏み出しています。
その新たなステージの根底にあるのは、「われわれの存在意義・存在価値を自らがしっかり把握する」ということです。日々の業務をこなしていればいい、という意識ではなく、自分の仕事がどこに価値を持ち、社会の中でどのように役立っているのかを、一人一人が認識する――この意識が定着してこそ、マテリアリティの意味合いはさらに深まります。その意識改革を推し進めていきます。
当社が重視するマテリアリティの中でも、人財は成長の源泉です。当社の利益を生み出しているのは社員です。だからこそ、社員への還元にも注力したいと考えています。最近ではRS信託方式の導入や奨励金制度の拡充など、できることから取り組みを進めてきました。将来的には週休3日制や副業制度の検討、さらにはサマータイムなど、社員の生活リズムに合わせて柔軟な働き方を可能にする制度の導入も視野に入れています。加えて、当社独自の社員紹介制度など、離職率の抑制と優秀な人財の確保に向けた仕掛けも打ち出しています。700億円規模の事業を目指すには、優秀な人財の確保と定着が不可欠です。制度面でも、満足度を高める取り組みのさらなる強化が必要です。
環境面では、第一次産業にIoTを持ち込み、地方の生産性向上に貢献する取り組みを開始しました。2025年4月からは公益財団法人肥後の水とみどりの愛護基金への寄付を通じ、熊本県阿蘇市「阿蘇水掛の棚田」の一区画を借用し、社員による稲作体験を実施しています。こうした活動を通じて、持続可能な社会の実現と社員の意識醸成を両立させます。将来的には農業分野へのITソリューション提供やIoT活用による効率化など、IT企業ならではのアプローチで展開を広げていきます。
「HIGH FIVE 2033」では「地域還流型ビジネスを生み出す企業へ」と掲げていますが、東京など大都市に流れがちな利益を、その地域の中で環流させるビジネスモデルを一つでも多く立ち上げたいと考えています。その典型的な一例が、2017年から開始した決済ビジネスの仕組みです。そして現在進めているのが、熊本県と連携して進めているブロックチェーンを活用した「Digital Safe(仮称)」です。これは貸金庫と終活ノートを組み合わせた電子終活ノートアプリで、利用者が生前にデータの受取人を登録すると、逝去後など指定のタイミングでそのデータを共有することができます。このサービスの狙いは、地方の預金や相続資金が都市部に流出するのを防ぎ、地元経済にとどめることにあります。これにより、地方が豊かになるご支援をしていきます。
さらに、次世代の経営基盤強化にも取り組んでいます。将来の幹部候補に向けた勉強会や研修を開始していますが、既にその中から高い志と独自の発想を持つ有望な人財が現れ始めています。またそれぞれの世代において、次のステップに進むために必要なスキルや経験、人物像の明文化にも取り組み始めています。これにより、人財の成長と組織の持続的発展を目指します。

ステークホルダーの皆さまへ
B to B to Cを深化させ、目指される企業へ

当社の社会的な認知度は、依然として十分に高いとは言えません。これまでB to Bビジネスであるがゆえに、その点をある程度やむを得ないものとして捉えてきました。しかし、私たちが提供するITを最終的に利用し、日々の暮らしの中で生かすのは、導入企業や自治体の先にいる地域社会の一般の皆様です。だからこそ、数年前から当社は「B to B to C」の企業であることを明確に掲げ、「to C」をより強く意識した取り組みを進めています。
当社のサービスは、一つ一つを見れば、実は人々の暮らしを支える不可欠な存在です。金融機関、自治体、百貨店、コンタクトセンターなどに加え、出資先のバカン社やPayke社のアプリ、さらには電子終活ノートアプリなども、直接利用するのは社会の皆様です。「え?これもアイティフォーがやっているの?」と驚かれるような領域をさらに広げ、市民生活の豊かさに直結する価値を創出していきます。これこそが、当社のパーパスにある「地方創生による社会貢献を通して、すべての人や企業にサプライズを提供」につながるからです。
お客様からよく頂く評価に、「良い意味で真面目」という言葉があります。真面目さは当社の強みではありますが、裏を返すと、面白みに欠けるとも言えます。今後さらに成長していくためには、「ワクワクする面白さ」を追求する段階に進む必要があります。ワクワク感が異なる視点を生み出し、新たな発想へとつながる――こうして成長の伸びしろが広がっていくのではないでしょうか。
当社はB to B to Cの企業でありますが、その根幹にあるのは「B」であるお客様との信頼関係です。昨今はコミュニケーションの方法も世代によって変わってきていますし、その変化を完全に否定するつもりはありません。しかし、それでもやはり、直接お客様とお会いして対話するなど、顧客接点を大切にしてほしいです。それこそが当社の最大の強みである「強固な顧客基盤」を生み出した原点です。
先日、投資家の方から「アイティフォーが目指す企業はどんな企業か」と尋ねられました。私は「目指される企業」と即答しました。それは、社員一人一人が何か一つでも秀でた強みを持ち、誰に会っても魅力ある対応ができる集団であること。そして「この会社は、社員が輝いているな」と思っていただけること。そんな企業であれば面白いと思います。
目指される企業に一日でも早く向かい、ステークホルダーの皆様にさらに応援していただけるよう、当社は引き続き全力で取り組んでまいります。